時代小説読書記録帳

時代小説(おもに新刊)の感想を書いています。

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時代小説・歴史小説の感想を書いています。 取り上げるのは新刊の文庫本が中心ですが、ときどきはこれまで読んだ既刊についても書きます。 ネタバレはなるべく避けていますが、100%回避できてはいません。 あくまで私の基準で書いていますので、「私の読ん…

坂井希久子『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』(文春文庫)

江戸時代の相性のよいカップルを表す言葉として、「東男に京女」 というのがありますが、本作はその逆。「東女に京男」 の物語です。 しかもヒロインは呉服の色見立てにかけては天才肌なのに、 堅物のお彩。その相手となるのが、京出身の呉服屋のボンボンで…

吉森大祐『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』(小学館文庫)

著者名に見覚えがあると思ったら、『幕末ダウンタウン』の作者さんじゃないですか! 数年前に小説現代長編新人賞を受賞された方ですよね? あのとき、石田衣良さんが講評で「こういうアイデアをこれから10個ぐらい考えろ。話はそれからだ」みたいなことを書…

輪渡颯介『髪追い 古道具屋 皆塵堂』(講談社文庫)

作者さんの、小説家としての体力がすごい。本作を読んで、そう唸りました。すべてのシーンがみっちりと書かれています。 茂蔵の兄貴分、棒手振りの魚屋の巳之助だった。年は多分、茂蔵より一つか二つ上なだけだが、やけに貫禄がある。この男の場合、何歳だと…

鷹井伶『おとめ長屋 女やもめに花が咲く』(角川文庫)

長屋ものでシスターフッドもの。そして人情要素と謎解き要素もプラス。そんな最近の時代小説の「トロ」の部分を、ぎゅっと詰め合わせたかのような作品です。「女性だけの長屋の物語」というテーマ(題材)も新鮮でいいですよね。これは作者さんが、「これま…

風野真知雄『同心 亀無剣之介 殺される町』(コスミック文庫)

本作の作者である風野真知雄さんといえば、数多くどころか数多多多多多くの時代小説を書かれている方です。筆が速いのもそうですが、これだけ書かれていてもネタが尽きないところがすごい。まさに職人技。 ただ、「ふだんはうだつが上がらない感じだけど、い…

佐々木禎子『口福の祝い笹寿司 はるの味だより』(ハルキ文庫)

4月にハルキ文庫から、「女性が飯屋で働く」という設定の時代小説が3冊刊行されました。この説明をするのも3回目です。つまり今回のこのエントリーで、3冊すべてを説明したことになります。似た内容のものが同時発売となれば、否応にでも比べたくなりますし…

中島久枝『ずんだと神様 一膳めし屋丸九(七) 』(ハルキ文庫)

前のエントリーにも書いたとおり、今月のハルキ文庫からは、似たような設定の時代小説が3冊刊行されています。そうなると、感想を書くにしても、「この3作品の違いはどこにあるんだろう?」という点を考えてしまいます。さらにこの3冊は、「女性が飯屋で働く…

坂井希久子『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』(ハルキ文庫)

今月、ハルキ文庫から「女性が飯屋で働くストーリー」の時代小説が、本作を含めて3冊刊行されました。多くの書籍購入が見込まれるゴールデンウイーク前の発売であることを考えても、おそらくこういった話が「売れ線」なのでしょう。大ヒットした『みをつくし…

佐々木裕一『新・浪人若さま 新見左近【十】 嗣縁の禍 』(双葉文庫)

映画『レディ・プレイヤー1』(2018年公開)を観たとき、「脚本家すげー!」と驚いたのを覚えています。おそらく配給元や製作チームから、「トレンドのバーチャルな感じとオンラインゲーム、それにバトルも絶対に必要。謎解き要素もあるといいな。ヒロインは…

芝村凉也『北の御番所 反骨日録【四】狐祝言 』(双葉文庫)

正直な感想を言うと、「読みにくいな」と思いました。だからといって、文章はグダグダではありません。無駄なくスッキリ書かれていますし、ストーリーだって面白い。裄沢の媚びない感じも、時代小説の主人公としては斬新で面白いのですが、どうも読みにくさ…

坂岡真『照れ降れ長屋風聞帖〈十八〉まだら雪 』(双葉文庫)

本作は人気作家・坂岡真さんの、人気シリーズの18作目であり最終作です。以前、『鬼役』シリーズの感想でも書きましたが、坂岡さんは、時代小説を通して「エンタメ小説はこう書くのだよ」というお手本を示してくれる作家さんです。 キャラの立て方だとかスト…

進藤玄洋『鬼哭の剣』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)

読み終わった瞬間、「惜しい!」と叫びました。本当に惜しいんです。あと一歩で傑作になりそうな予感がビンビンする作品ですから。 本作は、寛文9年(1669)にアイヌの惣乙名・シャクシャインが謀殺されたことから始まる、ミステリーであり、復讐劇であり、…

馳月基矢『拙者、妹がおりまして(5) 』(双葉文庫)

勇実と千紘の兄妹に、龍治に菊香。本作は、この四人の若い登場人物が織りなす群像劇の四作目となる作品です。全四話が収録されており、短編の連作のようなつくりになっています。さらに、それぞれ一話完結になってはいるものの、前巻の話の続きだったり、次…

鳴神響一『おんな与力 花房英之介【四】』(双葉文庫)

これは女剣劇だな、と思いました。本作は亡くなった兄になりすましている主人公・志乃が、女剣術士となって敵をバッサリと倒していく物語ですので、まさに女剣劇です。また、志乃がときには芸者の花吉や、女剣芸者の清水雪緒、医者の夕庵に変身するというギ…

谷津矢車『刀と算盤 馬律流青春雙六』(光文社時代小説文庫)

時代小説には、「アベンジャーズもの」といえるジャンルがあります。というか、私が勝手にそう呼んでいます。何らかの特技や技能をもった登場人物が何人か集まり、敵に立ち向かっていく、みたいな話ですね。 本作も、「アベンジャーズもの」といえる作品です…

坂岡真『継承 鬼役(三十二)』(光文社文庫)

結婚披露宴でのスピーチのド定番ネタに「結婚生活には3つの袋が大切と言われておりまして……」というのがありますが、小説では「3つの山」が大切というか金科玉条になっています。長編小説であれば、山場となるエピソードが3つは必要だということですね。しか…

岡本さとる『鯰の夫婦 居酒屋お夏 春夏秋冬』(幻冬舎時代小説文庫)

人情ものであり、居酒屋ものでもある。そんな時代小説の定番のど真ん中にある『居酒屋お夏』シリーズの、外伝的な「春夏秋冬」の第五弾が本作です。定番ということは、似た作品が山ほどあるわけで、数多くある類書の中で、際立った部分をどのように出してい…

白蔵 盈太『画狂老人卍 葛飾北斎の数奇なる日乗』(文芸社文庫)

キャラクターで読ませるか、ストーリーで読ませるか、はたまた世界観で読ませるか。どれで読ませる小説がいいのかといえば、この三つをしっかり兼ね備えているのがベストです。しかしそれが簡単にいくなら、すべての小説家のすべての作品が直木賞やら山本周…

柴田よしき『小袖日記』(文春文庫)

まずは本作を読んだ人のほとんどが、言いたいであろうことを代弁します。 「この主人公、医者でも看護師でもないのに、なんでこんなに医学の知識があるんだよ!」 「(前略)この国ではほとんど症例がないけれど、海を渡った大陸のその先、西の果ての国々の…

神永学『浮雲心霊奇譚 血縁の理』(集英社文庫)

『心霊探偵八雲』シリーズでおなじみの作家さんによる、「時代小説の最前線」(帯より)となるシリーズ『浮雲心霊奇譚』の6作目です。『心霊探偵八雲』の主人公・八雲と同じ赤い目を持つ浮雲が主人公であるのを見ても、帯の「『心霊探偵八雲』の原点がここに…

伊東潤『潮待ちの宿』(文春文庫)

帯に「歴史小説の名手 初の人情話連作集」とあるとおり、本作は歴史小説をメインに活躍されている作者さんによる、人情ものの時代小説です。幕末の備中笠岡で、宿屋で働く少女・志鶴が、いろいろな出来事を通じて成長する全6話の物語、というところでしょう…

神楽坂淳『醤油と洋食』(小学館文庫)

時代小説は、明治以前の時代を舞台とした小説と定義されています。そうなると、執筆時の資料集めや時代設定に苦労しなさそうなのは、現在にもっとも近い明治時代といえそうです。 ほかの時代に比べ、明治時代の文献や資料はたくさんありますし、明治時代の文…

澤田瞳子『若冲』(文春文庫)

タイトルどおり、本作の主人公は伊藤若冲です。江戸時代の有名な絵師の一人で、数年前の展覧会では、かなりの人を集めたことで話題になっていましたね。また、2021年の東京パラリンピックの開会式では、若冲の絵で装飾されたデコトラが出ていました。 そんな…

早見俊『放浪大名 水野勝成』(新潮文庫)

本作は、晩年に差し掛かった主人公・水野勝成が、息子と孫に己の人生を回想しながら話すことで進みます。そのため、「息子と孫に話している場面」と「勝成の人生の回想」という二つの話が交互に出てきてます。まずは「息子と孫に話している場面」があって、…

三好昌子『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』(新潮文庫)

さすがはベテランの作家さんが書かれた小説です。文章もうまく、無駄がない。しかし、「面白い!」「いい小説!」と手放しで褒められるかといえば、悩んでしまうんですよね。うーん……。考え込んでしまう前に、まずはあらすじの紹介です。舞台は室町時代。八…

田中啓文『崖っぷち長屋の守り神』(角川文庫)

もしや『蠅の王』の作者さんでは? と思ったら、やはりそうでした。私としてはホラー作家のイメージが強い作家さんですが、本作のような時代小説をはじめとして、さまざまなジャンルの作品を書かれているのですね。 本作は時代小説の中でも、いわゆる「長屋…

山田剛『人情出世長屋 てんやわんやの恩返し』(角川文庫)

読み始めてすぐに、「これは落語をやろうとしてるんだな」と思いました。会話部分が小説のものではなく、落語の会話に近かったので。 「何をするんですか」「どうしてお前さんはうちの前にごみを捨てるんだ。何遍言ったらわかる。うちの前にごみを捨てるな!…

泉ゆたか『髪結百花』(角川文庫)

闇を描いた小説。読み終えて、そう思いました。一貫して暗いのです。これは決して貶しているのではなく、陽の光の下ではわからないものが書かれているということです。江戸時代に生きる女性の、表には現れない苦しみと切なさが描かれているということです。…

五十嵐佳子『星巡る 結実の産婆みならい帖』(朝日文庫)

幕末の江戸で産婆見習いをする結実が、仕事での独り立ちを目指しながら、恋や結婚に悩むという、働く女性を主人公にした小説の王道ともいえる作品です。王道ということは、ストーリーがだいたい読めてしまうという弱点があるため、その読みをどれだけ外せる…